「取り壊し予定」の物件で塾を開業していい?借地借家法39条と注意点
「駅前の一等地なのに家賃が驚くほど安い」――内見でそんな物件に出会ったとき、契約書の特約欄に「本建物は将来取り壊す予定であり、取壊し時に本契約は終了する」といった一文が入っていることがあります。これは借地借家法39条が定める「取壊し予定の建物の賃貸借」という特殊な契約類型で、再開発や建て替えを控えたビルでよく見られます。家賃の安さに惹かれて契約を急ぐ前に、この契約形態が塾経営にどんな影響を及ぼすのか、事前に理解しておく必要があります。
なぜこの論点が重要なのか
借地借家法39条は、法令または契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すことが明らかな場合に限り、「建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する」旨の特約を認める規定です。この特約を有効にするには、取壊し事由を書面(または電磁的記録)で明示することが法律上の要件とされています。一般的な普通借家契約であれば、貸主から契約を終了させるには「正当事由」が必要で、実務上ハードルが高いのが通例ですが、この特約が有効な物件では、取壊し時期が来れば正当事由の有無にかかわらず契約が終了します。安さの裏にある「いつ出ていくことになるか分からない」という不確実性を、契約前にどれだけ具体的な情報として把握できるかが重要になります。
失敗事例・成功事例
ある塾長は、駅前再開発エリアの雑居ビルで相場より大幅に安い物件を見つけ、内装費をかけて個別指導塾を開業した。ところが契約から2年ほどで、想定より早く取壊しの時期が来ることになり、移転先探しと内装の減価償却が終わらないうちの原状回復費用の両方が重なり、資金繰りに苦労したという。一方、別の塾長は契約前に「取壊し予定時期の見込み」を管理会社に書面で確認し、その見込み時期を踏まえて生徒募集や設備投資(什器のリース活用など、取壊し時に処分しやすい形)を計画的に進めたことで、実際に取壊し時期が来た際も混乱なく次の物件へ移転できた。取壊し予定という条件自体を否定するのではなく、条件を正しく理解したうえで投資回収期間を短く設計できるかどうかが分かれ目になる。
判断基準・チェックリスト
- 契約書に「取壊し予定建物の賃貸借」である旨と、その事由(再開発計画、建替え計画など)が書面で明示されているか
- 取壊しの見込み時期について、確定なのか未定なのか、管理会社・貸主から可能な限り具体的に確認できているか
- 取壊し時期が前倒しになった場合の予告期間(何ヶ月前に通知されるか)が契約書に定められているか
- 内装工事・什器投資の減価償却期間と、想定される契約期間との間に大きなズレがないか
- 取壊し時に原状回復費用が発生する場合の範囲・負担割合が契約書で明確になっているか
- 移転先候補をあらかじめ複数エリアで把握し、急な移転が必要になっても対応できる状態にしているか
- 生徒・保護者への説明タイミングや、移転に伴う退塾リスクを織り込んだ経営計画になっているか
普通借家・定期借家との違い(目安)
あくまで一般的な考え方の目安であり、個別の契約内容によって扱いは異なります。
| 契約類型 | 契約終了の考え方 | 塾経営への影響の目安 |
|---|---|---|
| 普通借家契約 | 貸主からの解約には正当事由が必要で、更新が前提 | 長期の腰を据えた運営に向く |
| 定期借家契約 | あらかじめ定めた期間の満了で終了(再契約は貸主の判断次第) | 期間満了時期が明確なので計画が立てやすい |
| 取壊し予定建物の賃貸借(借地借家法39条) | 建物の取壊し時に終了。取壊し時期自体が前後する可能性がある | 賃料は割安な傾向がある一方、移転時期の見込みが変動しうる |
編集部からのアドバイス
再開発が進むエリアの駅前物件では、こうした取壊し予定の特約が付いた掘り出し物に出会うことがあります。家賃の安さだけで判断せず、「いつまで使える可能性が高いか」「早まった場合にどう動けるか」を契約前に管理会社へ確認し、内装投資の規模や生徒募集のペースをその前提に合わせて設計することが、安さのメリットを活かしながらリスクを抑える鍵になります。特に開業初期で運転資金に余裕がない場合は、取壊し時期の不確実性がキャッシュフローに与える影響を保守的に見積もっておくと安心です。
取壊し予定建物の賃貸借に該当するかどうかの判断や、特約の有効性、原状回復の範囲などは契約内容によって個別に異なります。契約締結前には、宅地建物取引士や弁護士など専門家に契約書の内容を確認することを強くおすすめします。
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