塾テナントの「2フロアをまたぐ物件」は要注意|内部階段設置と防火区画・竪穴区画のルール
生徒数が増え、低学年向けと高学年向けでフロアを分けたい、授業教室と自習室を別フロアに配置したいといった理由から、隣接する2フロア(例:2階と3階)をまとめて借り、内部に専用の階段を設けて行き来できるようにしたいと考える塾長は少なくない。しかし、複数フロアをまたぐ物件は、単独フロアの物件とは異なる建築基準法・消防法上の制約が生じることがあり、契約前の確認を怠ると、内装工事の直前になって内部階段の設置が認められない、あるいは既存の開口部を塞ぐよう指導を受けるといった事態に陥りかねない。
なぜ「2フロア一括借り」を検討する塾が増えているのか
1フロアの床面積では教室数が足りない、あるいは学年ごとに動線を分けて騒音や送迎の混雑を緩和したいといった事情から、同じビルの上下フロアをまとめて契約する塾は珍しくない。特に東武東上線沿線のような、駅前に中小規模の雑居ビルが多いエリアでは、1フロアあたりの面積がそれほど広くないため、生徒数の増加に合わせて上下階を両方借りるという選択肢が現実的になりやすい。エレベーターを使わず講師・生徒が内部階段で行き来できれば、共用部の混雑を避けられる利点もある。ただし、「2フロアを借りる」ことと「その2フロアを内部階段でつなぐ」ことは法令上まったく別の話であり、後者には相応の確認と手続きが必要になる。
内部階段の設置でつまずいた事例、慎重に進めて開業できた事例
ある塾では、2階・3階を借り増しした際、内装業者の提案のまま両フロアをつなぐ内部階段を新設して開業した。ところが開業後の消防検査で、階段部分が防火区画上の「竪穴(たてあな)」として扱われ、区画処理がされていない状態を指摘された。結果として、開業からほどなくして内部階段の使用を一時制限され、区画壁の追加工事や特定防火設備の扉設置など、想定外の追加費用と工期を負担することになったという。
一方、別の塾では、上下フロアを借りる計画段階で先に設計事務所と所轄の建築確認検査機関に相談し、内部階段の新設が建築基準法上どのような扱いになるか(防火区画の要否、確認申請の要否)を事前に確認したうえで契約と内装計画を進めた。契約前の相談によって想定より工事範囲が広がることが分かり、当初案より階段位置を変更することになったが、開業後にやり直しが発生することはなかった。
「竪穴区画」「防火区画」とは何か
建築基準法では、火災時に炎や煙が上下階へ一気に広がるのを防ぐため、階段・吹き抜け・エレベーターシャフトなど上下階を貫通する空間(竪穴)を、耐火性能を持つ壁や特定防火設備(防火戸など)で区画することを求めている(竪穴区画)。既存のビルで、もともと各フロアが独立したテナント区画として区画処理されていた場合、後から内部に階段を新設して2フロアをつなぐ工事は、この竪穴区画を新たに作り出す(あるいは崩す)行為にあたり、区画方法によっては建築確認申請や消防への届出が必要になる。また、延べ床面積の合計や用途によっては、単なる内装工事の範囲を超えて「用途変更」の手続きが絡んでくるケースもあり、内装業者の判断だけで進めるのはリスクが大きい。
契約前に確認すべきチェックリスト
- 貸主が2フロアを1つの賃貸借契約でまとめて貸してくれるか、フロアごとに別契約(賃料改定時期や契約期間もずれる可能性)になるか
- 内部階段の新設が、その建物の既存の防火区画・竪穴区画に影響しないか、設計事務所や建築士に事前相談したか
- 増改築の内容によって建築確認申請や消防用設備等の設置(自動火災報知設備の増設等)が必要になるか、所轄の建築主事・消防署に確認したか
- 内部階段部分について、退去時の原状回復(区画壁の復旧・階段撤去)の範囲と費用負担を契約書に明記しているか
- 両フロアの賃料・共益費・更新時期が異なる場合の管理上の煩雑さを許容できるか
費用感の目安
| 項目 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 設計・事前相談費用 | 設計事務所への区画検討・確認申請要否の相談は、内装設計費の一部として計上されることが多い |
| 内部階段新設・防火区画対応工事 | 区画壁や特定防火設備の追加が必要になる場合、単純な内装工事より費用・工期とも増える傾向がある。建物構造・区画方式により変動幅が大きく、複数の業者から概算見積もりを取るのが実務的 |
| 消防用設備の追加 | 自動火災報知設備の増設等が必要になる場合、既存設備の点検業者に概算を確認しておく |
| 退去時の復旧費用 | 内部階段を撤去し区画を復旧する費用は、原状回復の範囲として契約書に明記しておかないと退去時のトラブルになりやすい |
編集部からのアドバイス
2フロアを一括で借りて内部階段でつなぐという発想自体は、教室運営の効率化や動線改善に有効な選択肢だ。ただし、古い雑居ビルほど階段が建物全体で1系統しかなく、各フロアが独立した防火区画として設計されていることが多いため、後から内部階段を通そうとすると想定以上の工事が必要になりやすい。逆に比較的新しいビルでは、区画方式によって対応しやすいケースもある。いずれにせよ、内装業者の提案を鵜呑みにせず、契約前の段階で設計事務所や建築士、所轄の消防署・建築主事に一度相談しておくことを強くすすめたい。建築基準法・消防法上の扱いは建物の構造・築年・地域の運用によって個別性が高いため、本記事の内容を参考にしつつ、最終的な判断は必ず専門家・行政窓口に確認してほしい。
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