塾テナント契約を「公正証書」にすべきか|強制執行認諾条項のリスクと作成のメリット・費用目安
塾テナントの賃貸借契約を結ぶ際、大家や仲介業者から「この契約は公正証書で作成させていただきます」と提案されることがあります。公正証書と聞くと「より正式な契約でトラブル防止に役立つのだろう」と前向きに捉えてしまいがちですが、実は借主である塾側にとって見過ごせないリスクを伴う条項が含まれるケースがあります。それが「強制執行認諾条項(強制執行認諾約款)」です。この記事では、塾テナント契約を公正証書化することの意味と、契約前に確認しておきたいポイントを整理します。
なぜ公正証書化が話題になるのか
公正証書とは、公証人が当事者双方の意思確認のもとで作成する公文書のことで、私文書の契約書に比べて証拠力が高く、後日「言った・言わない」の争いになりにくいという利点があります。事業用テナントの賃貸借契約では、賃料が高額になりやすいことや、契約期間が長期にわたることから、大家側が公正証書化を求めるケースが少なくありません。ここまでは借主にとってもメリットのある話に聞こえますが、実務上、事業用賃貸借の公正証書には「強制執行認諾条項」が付されることが多く、これが借主に大きな影響を及ぼします。強制執行認諾条項とは、借主が賃料の支払いを怠るなど契約上の金銭債務を履行しなかった場合、大家が裁判所の判決を経ずに、いきなり強制執行(給与や預金口座の差押えなど)の手続きに進むことを、借主があらかじめ承諾しておく条項です。通常の裁判手続きでは、訴訟を提起し判決を得てから強制執行に至るため一定の時間と手続きがかかりますが、この条項があると、その過程を大幅に省略できてしまいます。
失敗事例・成功事例
ある塾長は、開業を急ぐあまり大家から提示された公正証書の内容を十分に読み込まないまま公証役場での手続きに臨んだ。契約書には強制執行認諾条項が含まれており、その対象範囲が「賃料等の金銭債務全般」と広く設定されていた。開業後、資金繰りの都合で一時的に賃料の支払いが1か月遅れた際、通常であれば督促や協議の余地があったはずが、大家側から予告なく給与口座の差押え手続きが進められ、事業運営に深刻な支障が出た。一方、別の塾では、公正証書化の提案を受けた際に契約書案を事前に確認し、強制執行認諾条項の対象を「賃料の支払いを○か月以上継続して怠った場合」など、猶予期間を設けた内容に交渉のうえ修正してもらった。結果として、一時的な資金繰りの乱れがあっても、話し合いによる解決の余地が残る契約になっている。この差は、公正証書の内容を「大家の言うまま」で受け入れたか、内容を精読し交渉したかにある。
契約前に確認すべきチェックポイント
公正証書化を提案された場合、以下の点を必ず確認しておくことをおすすめします。
- 契約書に強制執行認諾条項が含まれているか、含まれる場合はどの債務(賃料のみか、違約金・原状回復費用等も含むか)が対象か
- 強制執行に至るまでに、督促・催告など一定の猶予手続きが定められているか
- 公正証書作成にかかる費用(公証人手数料)を大家・借主どちらが負担するのか
- 契約書案を事前に受け取り、公証役場に行く前に弁護士等の専門家に確認する時間が確保されているか
- 強制執行認諾条項に納得できない場合、対象範囲や条件について交渉の余地があるか
- 公正証書化が必須の条件なのか、あるいは私文書での契約も選択肢としてあり得るのか
- 連帯保証人がいる場合、保証人も公正証書の当事者として同席・署名が必要になるか
特に強制執行認諾条項は、契約書の中でも数行の条文で片付けられていることが多く、開業準備で忙しい時期には読み飛ばしてしまいがちです。しかし、この条項の有無と範囲は、万が一の資金繰り悪化時に事業継続の余地を左右する重要な要素であるため、必ず事前に内容を確認してください。
公正証書作成の費用感(目安)
公証人手数料は、契約に定める賃料総額や保証金の額などの「目的の価額」によって法定の手数料表に基づき算定されます。以下はあくまで一般的な目安であり、実際の金額は契約内容や公証役場によって異なるため、事前に見積もりを確認してください。
| 項目 | 目安・考え方 |
|---|---|
| 公証人手数料 | 契約金額(賃料総額等)に応じて数万円程度から。金額が大きいほど手数料も増加する目安 |
| 正本・謄本の交付手数料 | 用紙代等として別途数千円程度かかる場合がある |
| 費用負担者 | 契約交渉により大家・借主どちらが負担するかは異なる。折半とするケースもある |
| 手続きにかかる期間 | 契約書案の調整から公証役場での手続き完了まで、数週間程度を見込んでおくと安心 |
東武東上線沿線エリアなど郊外で物件を探す場合でも、事業用テナントであれば公正証書化を求められる可能性は都心部と変わりません。開業スケジュールを逆算する際は、公正証書作成の手続き期間もあらかじめ見込んでおくとよいでしょう。
編集部からのアドバイス
公正証書化そのものは、契約内容を明確にし、後々の紛争を防ぐという点で借主にとってもメリットがある仕組みです。問題は「内容を確認せずに署名してしまうこと」にあります。特に強制執行認諾条項は、平時には意識することのない条文ですが、開業後に賃料の支払いが一時的に滞るような事態が起きたとき、その影響の大きさに初めて気づくことになりがちです。契約書案を受け取ったら、公証役場に行く前に必ず一度立ち止まり、対象範囲や猶予条件について大家側と話し合う、あるいは専門家に確認する時間を確保してください。
なお、公正証書や強制執行認諾条項の法的効力・解釈は個別の契約内容や状況によって異なります。本記事の内容は一般的な目安であり、実際の契約にあたっては契約書の条文を精読したうえで、必要に応じて弁護士等の専門家にご確認ください。
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