個人塾の教材コピー配布と著作権ガイド|市販問題集・過去問を無断複製すると危険な理由と正しい対処法
市販の問題集を教室でコピーして生徒に配る、他塾で使っていたプリントを流用する——個人塾の現場では日常的に行われがちな行為ですが、実はこれらの多くが著作権法上のリスクを抱えています。学校であれば認められる複製が、学習塾では認められないケースがあることは、開業準備の段階で意外と見落とされがちなポイントです。今回は、埼玉県内はもちろん東武東上線沿線エリアなど全国で新規開校・移転を検討する塾長に向けて、教材コピーと著作権の基本的な考え方を整理します。
学習塾は著作権法35条の「教育機関特例」の対象外
著作権法35条には、学校その他の教育機関において、授業の過程で使用するために必要と認められる限度で著作物を複製できるという特例規定があります。学校の先生が授業用に教科書の一部をコピーして配布できるのは、この規定によるものです。
しかし、この特例の対象となる「教育機関」は、学校教育法に定める学校や、それに準ずる非営利の教育施設が中心とされています。営利を目的として運営される民間の学習塾は、一般にこの教育機関特例の対象に含まれないと解されています。つまり「授業で使うためだから」という理由だけでは、市販教材の複製配布を正当化できないという点が、開業前に必ず押さえておきたい前提です。
2020年度から学校向けに始まった授業目的公衆送信補償金制度(SARTRASによる包括許諾)についても、対象は学校教育法上の学校等であり、学習塾は対象外とされています。オンライン授業の教材配信を検討する塾長は、この点も併せて確認しておく必要があります。
具体的に何がリスクで、何なら問題になりにくいか
すべての複製が一律に禁止されるわけではありません。私的利用の範囲や、著作権者から許諾を得た範囲であれば問題ありません。実務でよく直面するケースを整理すると、次のようになります。
| ケース | 考え方の目安 |
|---|---|
| 市販問題集を購入部数以上にコピーして配布 | 著作権者の複製権を侵害するおそれが高い |
| 塾専用の複製使用許諾付き教材(ワークブック等)の利用 | 出版社が定める範囲内であれば可能 |
| 自塾の講師がゼロから作成したオリジナルプリント | 自塾に著作権があるため配布可能 |
| 他塾から譲り受けた市販教材の複製プリント | 複製元の許諾状況が不明なため使用を避けるべき |
| 都道府県教育委員会が公表する公立高校入試問題 | 公表資料として比較的利用しやすいが、出典表記など公表元の利用条件を確認 |
| 私立中高の過去問(学校・出版社発行の過去問集) | 学校や出版社に著作権があり、無断複製・再配布は不可 |
特に「他塾で使っていたプリントをそのまま流用する」ケースは、開業初期に前職の資料を持ち出してしまいがちな落とし穴です。前職が著作権処理を済ませたオリジナル教材であっても、その使用許諾は前の勤務先や法人に帰属している場合が多く、独立後にそのまま使い続けることはトラブルの原因になり得ます。
実務でできる4つの対応策
- 複製使用許諾付き教材を選ぶ——塾専用のワークブックや問題集の中には、購入することで一定範囲のコピー使用が許諾されているものがあります。教材採択の段階で「複製使用許諾の有無」を出版社や販売元に確認するのが確実です。
- 必要部数をそのまま購入する——生徒数分の冊子をそのまま購入し、コピーせずに配布する方法です。コストは増えますが、著作権リスクをゼロに近づけられます。
- オリジナル教材を内製する——講師が独自に作成したプリントであれば著作権の問題は生じません。開業当初から市販教材への依存度を下げ、自塾オリジナルの教材ライブラリを積み上げていく塾も少なくありません。
- 出版社に直接、複製利用の許諾を申請する——大手出版社の中には、学習塾向けに複製利用の許諾申請窓口を設けているところもあります。使用範囲・部数・期間を明確にして申請する必要があります。
過去問・公表資料を扱うときの注意点
公立高校入試問題は、各都道府県の教育委員会が公式サイトで公表している場合が多く、教育目的での引用・活用がしやすい資料です。ただし、公表されている条件(出典の明記、改変の可否など)は都道府県ごとに異なるため、最新の公表条件は各教育委員会の公式発表で確認する必要があります。
一方、私立中学・高校の過去問については、学校や過去問集を発行する出版社に著作権があります。塾内での演習用にコピーして生徒に配布する行為は、市販の過去問集と同様に無断複製にあたるおそれがあるため、購入した冊子をそのまま使う、あるいは学校の公式サイトで公開されている範囲のみを利用するなど、慎重な対応が求められます。
現場で起こりがちな失敗と、うまくいっている塾の共通点
ある個人塾では、開業当初にコスト削減を優先し、市販問題集を必要部数以上にコピーして配布していたところ、出版社から複製利用に関する問い合わせを受け、教材選定を根本的に見直すことになったというケースがあります。急な教材切り替えは講師・生徒双方に負担がかかるため、開業前の教材選定段階で複製使用許諾の有無を確認しておくことの重要性がうかがえます。
逆に、開業当初から複製使用許諾付きの教材を軸に据え、並行して講師陣でオリジナルプリントを少しずつ蓄積してきた塾では、数年後には市販教材への依存度が下がり、教材費のコントロールと著作権リスクの低減を同時に実現できているという声もあります。
編集部からのアドバイス
教材のコピー配布は、生徒数が増えるほど複製部数も増え、リスクが積み上がっていく性質のものです。開業準備の段階では物件探しやカリキュラム設計に意識が向きがちですが、教材選定の際に「この教材は複製利用が許諾されているか」を一つの判断基準として加えておくと、後々のトラブルを避けやすくなります。判断に迷う場合は、出版社の窓口や著作権に詳しい専門家に個別に確認することをおすすめします。
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