個人塾の損益分岐点|黒字化に必要な生徒数の計算方法と経営目標の立て方

「何人の生徒が集まれば黒字になるのか」──これは個人塾を開業する前に必ず計算しておくべき数字です。感覚で「30人集めれば大丈夫だろう」と見込んでいると、実際に30人達成しても赤字が続くケースが少なくありません。この記事では、固定費・変動費の整理から損益分岐点の計算式、生徒数別の収支シミュレーションまでを具体的に解説します。

なぜ「何人で黒字?」を先に計算するのか

損益分岐点(ブレークイーブンポイント)とは、収入と費用が等しくなる生徒数のことです。この数字を事前に把握しておくと、次のようなメリットがあります。

  • 資金ショートのリスクを把握できる:開業後〇ヶ月以内に〇人集めなければ自己資金が底をつく、という撤退ラインが見えます。
  • 月謝設定の根拠になる:損益分岐点を下げるには単価を上げるか費用を削るか。月謝を高くする根拠として使えます。
  • チラシ・広告予算の判断軸になる:1名の生徒を獲得するためにいくらまで広告費を使えるか(顧客獲得単価の上限)が逆算できます。

個人塾の費用を「固定費」と「変動費」に分ける

まず毎月かかる費用を2種類に分けます。固定費は生徒数に関係なく発生し、変動費は生徒数に比例して増減します。

費用項目種別目安(埼玉エリア・個別指導塾の例)
テナント家賃固定60,000〜150,000円/月
水道光熱費固定10,000〜20,000円/月
通信費(Wi-Fi・電話)固定3,000〜6,000円/月
各種保険・会費固定3,000〜8,000円/月
広告・集客費(固定枠)固定10,000〜30,000円/月
システム・ソフト利用料固定3,000〜10,000円/月
講師人件費(バイト)変動生徒1人あたり2,500〜4,000円/月相当
教材費・消耗品変動生徒1人あたり800〜1,500円/月

固定費の合計は物件の規模によって大きく変わります。東武東上線沿線(志木市・朝霞市・川越市など)の路面店舗では家賃だけで10万円前後になることも多く、固定費合計は月10〜22万円程度が現実的な目安です(オーナー自身の人件費・役員報酬は含まない)。ふじみ野市・坂戸市・東松山市といった郊外エリアは家賃が低い分、固定費を8〜15万円程度に抑えやすい傾向があります。

損益分岐点の計算式

損益分岐点(生徒数)の基本計算式は次のとおりです。

損益分岐点(生徒数) = 月次固定費 ÷(生徒1人あたりの月謝 − 生徒1人あたりの変動費)

分母の「月謝 − 変動費」を限界利益(コントリビューションマージン)と呼びます。限界利益が大きいほど、少ない生徒数で固定費を回収できます。

【計算例】オーナー主力・学生バイト補佐の個別指導塾(埼玉エリア)

  • 平均月謝:22,000円(中学生・週2コマ80分を想定)
  • 変動費(バイト人件費+教材費):3,200円/生徒
  • 限界利益:22,000 − 3,200 = 18,800円
  • 月次固定費:160,000円(家賃10万・光熱費1.5万・広告費2万・その他2.5万)
  • 損益分岐点:160,000 ÷ 18,800 ≒ 9人

この計算では9名で固定費を回収できます。ただしオーナー自身の報酬が含まれていない点に注意してください。オーナーが月20万円を手元に残したい場合は、追加で「20万円 ÷ 18,800円 ≒ 11人」が必要になるため、合計20名程度が実質的な黒字化ラインになります。

生徒数別・収支シミュレーション

下表はオーナー主力型の個別指導塾(平均月謝22,000円・変動費3,200円・固定費16万円)の生徒数別収支をシミュレーションしたものです。数値はあくまで目安です。

生徒数月次売上変動費合計限界利益合計固定費営業利益(オーナー手取り前)
5名110,000円16,000円94,000円160,000円−66,000円(赤字)
10名220,000円32,000円188,000円160,000円+28,000円
15名330,000円48,000円282,000円160,000円+122,000円
20名440,000円64,000円376,000円160,000円+216,000円
25名550,000円80,000円470,000円160,000円+310,000円
30名660,000円96,000円564,000円160,000円+404,000円
40名880,000円128,000円752,000円160,000円+592,000円

「営業利益」からオーナーが報酬を取るイメージです。生徒数20名でオーナー手取り約20万円、30名で40万円超というのが現実的な目線になります。なお、生徒数が増えると講師の枠が増え変動費が上がるため、表よりも利益が圧縮されるケースもあります。スタッフ採用のタイミングで別途シミュレーションを更新してください。

損益分岐点を下げる3つのアプローチ

損益分岐点は「固定費を減らす」「月謝単価を上げる」「変動費を削る」の3方向で改善できます。

  • ① 月謝単価を上げる(限界利益を大きくする):最も即効性があります。高校受験・英検対策などの付加価値コースを設定し、1,000〜3,000円の単価アップを図ると、損益分岐点が数名単位で下がります。朝霞市・和光市・志木市のように都内私立中学を受験する家庭が多いエリアでは、難関対策コースへの需要があります。
  • ② 固定費を抑える(物件選びが重要):テナント家賃が固定費の4〜6割を占めるため、物件選びが最大のコスト削減ポイントです。路面店より2階以上・駅から5分圏外・商業ビル内の区画など、条件を変えると賃料が2〜3割変わることがあります。詳しくは当サイトの物件選びカテゴリを参照してください。
  • ③ オーナーが主力講師になる(変動費を抑える):開業初期はオーナー自身が授業の大半を担当し、アルバイト講師の出講時間を最小化します。生徒20〜30名まではオーナー主力で運営できる塾が多く、変動費を抑えることで損益分岐点が下がります。

失敗例と成功例

【失敗例】固定費を把握せずに開業し、生徒20名でも赤字が続いた
川越市内で個人塾を開業したAさんは、家賃12万円の路面店舗を借り、学生バイト3名体制で運営。月謝は地域相場に合わせて18,000円に設定しましたが、変動費(バイト代+教材費)が生徒1人あたり5,500円と高く、限界利益が12,500円しかありませんでした。固定費は家賃・光熱費・広告費合計で20万円を超えており、損益分岐点は16名。生徒20名を達成しても手元に残るのは5万円程度で、オーナー自身が生活費を別途工面し続ける状態が1年以上続きました。教訓:月謝は地域相場の最安値に合わせる必要はない。変動費を含む限界利益を先に計算してから月謝を決める。

【成功例】損益分岐点を8名に設定し、開業3ヶ月で黒字転換
新座市で小学生・中学生向け個別指導塾を開業したBさんは、郊外の2階テナントを月7.5万円で契約(月坪単価4,000円台)。オーナー本人が週5日フル出講し、バイト講師は週末のみ1名採用。月謝は英数セットで25,000円に設定し、限界利益を20,000円以上確保。固定費を16万円以内に抑えたことで損益分岐点が8名となり、開業3ヶ月目に10名が在籍し黒字転換。6ヶ月後には18名まで増え、オーナーの手取りが25万円を超えました。教訓:物件費用と月謝単価の両方を先にコントロールすれば、少ない生徒数で安定できる。

※事例は編集部が収集した情報をもとにした概要です。実際の収支は物件・生徒構成・講師体制によって異なります。事業計画の作成は税理士・中小企業診断士にご相談ください。

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